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新見錦。天保七年(一八三七)、水戸藩の生まれ。芹沢鴨の腹心の部下で、常に行動を共にしていたことから、陰では芹沢の腰巾着と呼ばれていた。
乱暴者で芹沢以外とはつるまず、単独行動が多かった。そのため組内でも浮いた存在だった。しかし芹沢の意図を汲むのは上手く、大和屋焼き討ちでは地上にてその指揮を執っていたほど。
本の内容はそこで途切れていた。
最後まで書かれていなかったところから、未来は確定していないのだろう。
しかし、新見ともう一度会わない限り、この嫌な胸騒ぎは払拭されない。
そう思って、あれから新見の居所を聞き込んでいたが一向に有力な情報はなく、他出時は近藤派の幹部がいるので探したい、と言い出すのは憚られた。
結果として、新見とは会えていない。
そんなことを思い出し、軽く息をついてから気を取り直して食事を進めた。
しかし、どうしてもあの四人の行動が奇妙で、すでに姿はないのに広間の上座へ視線が行く。
「き、気になるの?」
小さな呟きが左からした。
思わず振り向きそうになって、なんとか堪える。
「気になるっていうか、胸騒ぎがするっていうか……嫌な感じを受けた」
「嫌な感じ……うん、当たってるのかも」
「何か知ってるのか?」
「し、知らない。でも、……近からず遠からず、知ることになると思う。たとえそれが、受け入れがたい事実でも」
「!! 藤堂さん、やっぱり知って───」
そう言いながらついに振り向いてしまった私の目と藤堂の目が合った。
しかし一瞬のことですぐに逸らされてしまい、それでもその瞳を見て確信した。
この人は何も知らないが、人一倍感受性が強いのだ。
だから、四人の表情や雰囲気から予想が着いたのだろう。
だが、言うつもりはない。
「……ごめん」
「藤堂さんが謝ることは何一つないよ。さて、御馳走様でした。オレは先に行くよ。稽古の前に洗い物を終えないと」
近藤と同じように辛そうに歪む横顔から視線を逸らし、私は勢いよく立ち上がると足早に広間を出た。
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