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さて、まずここは夕月大学のあるキャンパス。 多種多様な学部が勢揃いし、どの学部もそれなりの成果を出しているが、夕月大学は特に天文学で名の通っている大学である。 そして私──有栖川望月もその学部に通っている一年生だ。 ……一年生なのに、なぜ教授とご飯? なぜ周りの人達にあのような扱われ方をされているのか? その理由は単純明快、私の父──有栖川宵智(アリスガワヨイチ)という存在だ。 彼は天文学界において偉大な人らしく、彼の書く論文は素晴らしいの一言に尽きるそうだ。 そして彼はこの夕月大学天文学部の教授でもある。 ようは、彼らは私の父への印象を良くするため、あるいは繋がりを持つために私の側に常にいる。 それがまるで当然かのように。 そんなことを説明している間に、私はこの大学内で一番高い建物、通称夕月の摩天楼までやって来た。 自動ドアをくぐり抜け、エレベーターに乗って最上階を示す二十一のボタンを押した。 エレベーターは静かに動きだし、数十秒後に小さな到着音を鳴らしてドアが開かれた。 廊下はガラス張りで、西を見れば雲の隙間から今まさに太陽が姿を隠そうとしていた。 私は廊下の真ん中まで行くと、大学から特別に渡されている鍵を使ってドアを開けた。 権力とはなんて素晴らしく醜いのか。 ドアの先にはドーム型の室内があり、部屋の真ん中付近には巨大な装置があった。 それは人工的に星を見る機械で、ここがプラネタリウムだということが一目瞭然だ。 私は機械の電源を入れると近くの席に座った。 丸い天井に星が映し出され、ようやくそこで深く息を吐いた。
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