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螢「……私が言ったのだから、桂も何があったか教えてくれないのか?」
言いながら、悲しそうな桂の頭を抱き寄せた。
桂「…………」
ゆっくりと背に腕を回してくれる桂は、ハァと一度息を吐く。
桂「今から、宮部さんたちと会合だったんだよ。
珍しく……宮部さんに誘われてね。
宮部さんは私に今晩、そのことを言うつもりだったのかもしれない。
けれど、先に聞いてしまったね」
螢「……そっか」
桂「何をしようとしているのか、それを聞きたくない自分もいた。
知ってしまえば、私は動く他ない。周りの意志がそう仕向けてくるから……」
螢「…………私が、言ってしまったな」
言いながら、私の顔に苦笑が浮かぶ。
別に、今言おうと、桂はこの後に宮部から聞くはずだったのかもしれない。
それも分からぬことであるが、私は言ってしまったことを後悔だけには繋げたくない。
桂「また少し、螢の元へ来るのが遅くなりそうな話だから……今日はもう、行かないでおこうかな」
螢「…………うん」
桂。お前はそう言いながらも行くのであろう?
何故なら、お前は私と違って、藩のためになることを常に頭に置いているから……こんなことを聞けば、行かないわけがない。
だけど……私は知っていることを切り離すことがまだ怖いから、今は、行かないでほしいよ。
だって、ここで桂が行かないだけで、また未来が変わるかもしれない。
そうなれば、私はまた一つ逃げ場がなくなって、そうしていくことでお前と同じように今に悩み走れるだろうから……。
それを桂が望んだくせに、そうやってまだ逃げ場を残されるのは、苦しい。
私は我が儘だから、知っていることが無くなることにも、知っていることが起こることにも……そのどちらにも不安を抱いてしまう。
こんなことだから、私は中途半端に皆を巻き込んでしまうのだろう。
螢「桂、今日はここに泊まらないのか?」
泊まらないと分かっていて、私は聞いた。
桂は私の腕におさまったまま、何も言ってはくれなかった。
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