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服は汗を吸い尽くしてじっとりと重く、砂の上に寝転んで夜を明かしたせいで頭がざらついている。
バルダンへ着いたらまずは汗を流して、清潔な服に着替えて――。
思い浮かべていた計画は、有刺鉄線に囲まれた街を一目見た瞬間に潰えた。
この街では、リアの体臭など気にする者はいないだろう。
それだけが唯一の救いだった。
そう思わなければやりきれない。
――どこの国にも、貧富の差はある。
富んだ者は同じく富を持つ者と、貧しい者は同じく貧しい者とコミュニティを築き、結果として、富裕層が暮らす区画と貧民層が暮らす区画が形成される。
不思議なことに、これらの地域が隣り合っていることは少なくない。
しかし、諸外国に比べてバルダンの犯罪率が圧倒的に高かったのは、札束で膨れた財布の持ち主がすぐそばをうろついているからという理由だけではなかった。
政府は、貧民外に暮らす人々に救いの手を差し出そうとはしなかった。
一度墜ちてしまえば、人としての尊厳も何もかも剥奪され、二度と這い上がることができない、バルダンとはそういう街だったのだ。
それでも彼らには、その日の飢えをしのぎ、同じ境遇で生きる人々とのふれあいにささやかな幸せを見出すだけのゆとりがあった。
凄惨な殺人事件が起きる、その夜までは。
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