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「これは――とんだ失礼を」
口ごもるように言いながら、男はベルトに下げた鍵を外し、扉に取り付けられた南京錠に差し込んだ。
拍子抜けするほど軽い音がして、扉は難なく開いた。
「お気をつけて」
敬礼する男に手を振って応え、リアは街中を見渡した。
物影からリアと憲兵のやりとりを盗み見ていた少女は、目が合った瞬間さっと身を翻して駆けていった。
――今はそうやって意地を張っているが、いつかきっと、その足で故郷を訪れる日が来るはずだ。
穏やかな、それでいて凛と通る声が蘇る。
――だが、できることなら戻ってほしくはない。おまえが彼の地を踏むとき、私は傍にいてやれないだろうから。
「あんたの言うことはいちいちよく当たるよ、クソ親父」
リアは苦笑混じりに、荒廃した街の空気を吸い込んだ。
強すぎる太陽の光に目眩がした。
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