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ぶち抜かんばかりの勢いでドアが開かれ、ロドルフは扇形に広げたトランプ越しに、音の主を睨みつけた。
「静かに閉めろと何度言えば分かる、ヴァル。頭の横についてるそれは飾りか?」
向かいに座るジークがヤニで黄ばんだ歯を剥き出し、けたけたと笑った。
――何が面白いものか。
ロドルフは心の中で毒づく。
弱者。偽善。馴れ合い。
世の中の九割は気に入らないものでできている。
媚びへつらうしか脳のない人間など、見ているだけで虫唾が走る。
それでもジークを一味として受け入れたのは、油断しきった人間を足元から引っ繰り返そうとする残忍な本性を知っているからだ。
狡猾な人間は、嫌いではない。
それに引き換え、とロドルフは未だ所在なさげに戸口にたたずむヴァルを見た。
押さえた右手にくっきりと歯形が浮いている。
骨張って皮膚の薄い指に、うっすらと血が滲んでいるのも見て取れた。
噛み付かれた手を無理矢理引っこ抜いたらしい。
「その様子じゃあ、まだ餌をやれてねえようだな。ガキの子守すら満足にできねえとは、呆れを通り越して恐れ入ったぜ」
不健康なまでに白い肌を紅潮させ、ヴァルはしかしと口ごもった。
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