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「さて、後一人…」
ブルーが小さく言った。
彼女としては、本気を出せば3秒後にはこちらの背の低い方の男も背の高い男と同じように気絶させることは可能なのだが、本気を出すのは少々億劫だった。
それに…、
(いつも生死しかない戦いしかないんだから…たまには楽しみたい)
と、いった気持ちもあった。
男に向けて腕を伸ばし、軽く手を招くようにして挑発する。
男は、酒が入っているせいかその挑発に簡単に乗り、ブルーに向かって突進した。
ブルーはその進路を一瞬で読むと、半歩動いて体を引き、男が出した腕もかわして足に足を絡ませて転ばせる。
しかし、転ばせただけで何もせず、相手が立ち上がるのを待っていた。
いいようにしてやられる男は、どんどんと頭に血が上っていく!
そして、立ち上がるとまたさっきと同じように突進の体勢に入る。
ブルーは、馬鹿の一つ覚えのような突進に呆れながらも、次の攻撃に備えて足に力を込めた。
男が突進をしてくる。
だが、男の視界には、数瞬後には天井しか写っていなかった。
先ほどよりもざわめくギャラリーの声を聞きながら、男の意識は何処かへ飛んでいった…。
ブルーは、突進してくる男が射程範囲内に入る直前、重力に従うように後ろへ体を倒した。
背中が床に付く前に、手を伸ばして思いっきり力を込め、足は床を蹴った。
体全体をバネにしてブリッジの体勢から男の顎を蹴り上げた!
ブルーのつま先は綺麗に男の顎へ入った。
そこは、強い衝撃を与えると簡単に気絶する人間の弱点。
男も例外ではなく、後ろに倒れるようにして崩れ落ち、意識を飛ばしていた。
ブルーは飛んだままの空中で一回転すると近くのカウンターにスタッ、と着地してから「ふぅ」と、一息ついた。
それはまるで、サーカスのような、重さを全く感じさせないような華麗さだった。
ギャラリーがブルーの強さに大いに沸き立っているがそんな事は無視し、おばさんの元へ歩いていった。
「それじゃあ、蟹、忘れないで下さいね」
それだけ言って、おばさんの返答をしっかりと確認してから自分の仕事場へと向かって歩いていった。
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