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とんでもない場所へ来てしまったと思った。
交通手段は車だけ。
コンビニもなければスーパーもない。
一番近いスーパーまでは車で30分。それも個人経営らしき寂れたもの。
この村のみんなはここで全てを揃えているというのか。
栄えた町まで出るのに車を走らせること一時間半。
ガソリン代も馬鹿にならない。
本当にとんでもない場所へ来てしまった。
俺はこの村に唯一ある小学校へと赴任してきた教師だ。
生徒の人数は全校で28人。
教師は俺を含めて三人。
あとは校長先生。
個人塾の様にこじんまりとした雰囲気。良く言えばアットホーム?
勿論校舎は木造のボロ造り。
今日も半日、俺はこの場所で過ごすわけなのだが。
「せんせーい!!来て来てーっ」
一人の生徒が、テストの採点中の俺に声を掛けてきた。
「採点中は声を掛けるなとアレだけ言っただろう」
「そんなのあとでも良いじゃないかー!それより大変なんだ!大事件だよ!」
生徒の慌てぶりと大事件という言葉に、俺は赤ペンを置き重い腰をあげた。
すかさず生徒に手を取られ、駆け出さざるを得ない。
気付けば生徒は俺の50メートル程前方を走っている。
「はやくはやく!!!」
教師になって早10年。
全力疾走なんてほとんどした試しがない俺の息は、驚くほどにあがっていた。
「はぁはぁっ」
「もう遅いよせんせーい!」
「大事件って…はぁはぁ…何があったんだ!?」
俺の問いを聞いた生徒は、悪戯な顔でペロッと舌を出しはにかんだ。
「そんなの嘘だよー!」
「なっ…」
「せんせいに見せたいものがあったんだ!!」
自慢気に笑う生徒の顔を見れば、俺は脱力せずにはいられない。
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