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岩井が去って安心した客と店員は徐々に最初の盛り上がりを取り戻していった。それを確認してから花形をきちんと座らせ、自分はその隣――岩井がいたところに座る。
「はぁ……岩井くん、熱くなり過ぎだよ」
花形の左頬はすでに赤く腫れていた。隠すようにして俯いているが、気にせずに山村は話す。
「僕も若い頃は失敗してばっかでさ……まぁ、今もだけど。この歳で階級は巡査部長止まり、僕こそメンバーに選ばれたのが不思議だよ」
花形とはあまり真面目な話をしたことがないので、恥ずかしさがこみ上げる。しかし今度はしっかりと花形を見た。
「だけど……僕もここまでやって来た。それは自分の誇りだと思う」
「誇り……」
「きっと、花形くんは小暮にも他の人にも負けない何かを持ってたから、選ばれたんじゃないかな」
花形が山村を見つめる。男にしては大きな瞳が震えていた。
「岩井くんは、それを気づいてほしかったんだと思うよ」
冷めたビールは泡が消え、無惨な姿を露わにしている。
しばらくして花形は立ち上がり、ひとつ深呼吸をした。
「……僕、岩井さん探してきます!」
走って出て行く花形を山村は優しく見守った。
そしてビールに手を伸ばそうとしたが……やめた。
「――岩井さん!」
花形の声に岩井は立ち止まった。
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