送り火

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上目遣いに見つめてくる朔に、沖田は申し訳なさそうな顔を見せた。 自分の我が儘で、朔にかなり気を使わせてしまったようだ。 沖田の好物を用意して帰りを待っているという事は、藤堂の誘いを断り、屯所にいるという事だ。 「…送り火、見に行かなくて良いんですか?」 自分が言えた義理では無いが、沖田はそう聞かずにはいられなかった。 年に一度の夏の風物詩だ。 朔も見たかったのではないだろうか。 「私の事なら良いんですよ?まぁ…出来るなら一緒に見たかったですが、仕方ないですし、朔さんが私に付き合う事は無いんですよ?」 沖田がそう言えば、朔は小さく笑いながら、首を横に振った。 「いいえ、別に気を使った訳じゃないですよ?」 朔はそう言うと、僅かに表情を曇らせた。 「ちょっと調子があまり良くなくて。だから平助…ごめんなさい。誘ってくれて嬉しかったけど、今年は屯所で大人しくしてるわ。平助は折角だし、皆で楽しんできて。そして、お土産話聞かせて。ね?」 そう言って笑う朔に、藤堂も沖田も朔の体調を心配したが、朔は大丈夫だと笑って見せた。 そんな朔に沖田達は一応の納得はし、食事をしたり、自室へ下がったりと、各々の行動へと移った。 そんな彼らの影で朔は、沈んだ顔をすると、そっと溜め息を零し、空いたお膳を持つと、台所へと姿を消した。 朔が沈んだ顔をしていた事に沖田達は気付いていなかったが、土方だけは気付いていた。 朔が沈んだ顔で退室して行く様を土方は、じっと見ていた。
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