送り火

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「…はい。新撰組に残った事を後悔はしていません。私は今、本当に幸せです。…でも、ここは両親と兄を弔うには遠いんです。…きっと、私の祈りは届かない」 ぽつりぽつりと話し出す朔に土方は何も言わず、じっと耳を傾けていた。 「母が亡くなってから、毎年お盆になると、蛍が一匹私のところに来たんです。迎え火を焚いた頃に窓から入ってきて、そのまま送り火を焚く日までいたんです。あの蛍は亡くなった母だと信じてます。…でも…もう今年からは会えないんです。兄と父もお盆の間に戻ってきてくれたかもしれないけれど、私は両親と兄が知らない場所にいるから…」 最後の方は、朔は膝を抱えて蹲ると、悲しみを押し殺した震える声で呟いた。 幕末を選んだ時に覚悟をした。現代での全てを失っても構わないから、誰より愛した人の側に居たいと願った。 血に塗れた道を共に歩くと、罪咎も全て共に背負うと、愛した人の手を取った。 現代を忘れた筈だった。 なのに、覚悟したつもりで、覚悟が出来ていなかった。 そんな自分の弱さにも嫌気がさすのだ。 悲しみと自己嫌悪で朔が蹲っていると、不意に温かい温もりに包まれた。 何事かと顔を上げると、土方に肩を抱かれていた。 「土…方、さん?」 「どいつもこいつも、独りで抱え込むのが好きで困ったもんだぜ」 土方はそう溜め息を吐くと朔の顔を真正面から見た。
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