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「泣きたい時は泣け。お前の事情を俺は総司ほどには知らねぇ。だが、お前が新撰組に残る事で、多くのものを捨てた事くらいは分かる。何よりも大事に思っていた両親と兄貴さえ捨てたってのも分かってる。…どんなに覚悟した上でも、辛くねぇ筈がねぇさ」
どんなに覚悟をしても、大事な人を捨てる痛みを感じない人間はいないだろう。
土方とてそうだ。
芹沢らを手に掛けた時の痛みは今でも忘れられないし、お盆の時期になれば思い出さずにはいられない。
同志の芹沢で、そうなのだから、朔の痛みはそれ以上であろう。
何せ、世界の全てであったと言っても過言ではない存在を捨てたのだから。
「捨てたからといって、無理に忘れる事はねぇ。捨てたものが大事なものなら尚更だ。捨てたものを忘れなきゃいけねぇだなんて、誰が決めたんだ?」
誰も決めてなんかいないだろう、と土方の瞳は朔に告げており、朔は無言のまま頷いた。
誰も決めてなんかいない。
勝手にそう決め込んでいたのは自分だ。
今が幸せだから、幕末を選んだのだから、過去は全て忘れなければならない…忘れなければ新撰組の人達に失礼だと勝手に決め込んでいたのだ。
「…私、新撰組の皆さんを選んだのに、捨てたものを忘れずにいて良いんでしょうか?こんなに幸せなのに、両親と兄の温もりを懐かしんでは失礼ではありませんか?」
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