送り火

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「さっきお前は、ここからじゃ遠くて祈りが届かねぇって言ってたが、そんな事ねぇと俺は思うがな」 土方はそう言うと、目を細めて笑った。 そんな土方に朔が首を傾げると、土方は朔の周りを指差した。 「気付かねぇか?さっきから蛍が三匹、お前の周りを飛んでるんだよ。お前の両親と兄貴じゃねぇのか?」 土方に言われて、朔が周りを見れば、そこには土方の言う通り、淡い光を放ちながら幻想的に飛び交う蛍が三匹いた。 朔の周りをけして離れずに飛び交う蛍達に、朔はそっと両手を出してみた。 すると、蛍達は迷う事無く、朔の掌の上に舞い降り、朔の掌の上で淡い光を放った。 「…お母さん、お父様、お兄様…なの?」 朔がそう呟くと、まるでそれに答えるかのように、蛍は淡い光を明滅させた。 その様子に朔の涙腺は再び緩み、肩を震わせながら朔は涙を零した。 何故かは分からないが、この蛍達は両親と兄なのだという確信があった。 「お母さん、産んでくれて有り難う。私は幸せだから、心配しないで。…お父様、お兄様…ごめんなさい。家より自分の我が儘を取った私を許して。私、今はとても幸せなの。お兄様、私、今は笑えるようになったのよ」 朔は掌の上の蛍を見つめながらそう言うと、涙を零しながら蛍に笑いかけた。 その笑顔は本当に綺麗で、土方は満足そうに蛍と朔を見つめていたが、不意に土方は真面目な顔になると、朔の側に寄ってきた。 「ちょっと良いか」 「土方さん?」 朔が首を傾げると、土方は朔から蛍へと視線を向けると、飛び交う蛍に静かに頭を下げた。
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