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「…そう言えば、あの日の桜は一段と綺麗でしたね」
私は平助がいる事も忘れて、そう呟いていた。
あの日…。
朔さんと出会ったあの夜に見た桜は、思わず溜め息が零れる程に綺麗でした。
あの日は、土方さんが皆に内緒にいる句集を持ち出したのがばれて、こってり絞られたんですよね。
そんな隠れてこそこそと俳句を詠まなくたって…。
まぁ、土方さん俳句の才能は余りは無いかもしれませんが、あれはあれで味があると思うんですけどね。
何でしたっけ?
…あぁ、そうそう!
『梅の花 一輪咲いても 梅は梅』
思いっきり笑いましたが、私、意外に好きですよ?
えぇ、たとえ一輪でも梅は梅です。そんなの当然の話じゃないですか。
でも、何回も詠む内に気付いたんです。
たとえ咲き乱れていなくても…たった一輪しか咲いていなくても梅には変わりない…本質は変わらないって事を土方さんは詠んだんじゃないかなぁ。
姿形が変わっても、本質が変わらないものもあるって。
そう気付いた時に…何となくだけど土方さんの心が見えた気がしました。
ほら、私達…京に来てから随分と周りが目まぐるしく変りましたでしょう?
そんな中で確実に私達…特に土方さんは変りました。
そんな変化を実は土方さんは寂しがっていたのかなぁ…って。
変わっていく世の中。
変わっていかざるをえない私達。
日野にいた頃とは何もかもが良くも悪くも変わったけど、自分達の本質は変わらない。
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