願わくば…

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桜の樹の下に立ち、上を見上げると、四方一杯に枝を伸ばし、その一枝一枝に沢山の花を咲かせ、月明りを浴びては咲き誇る幻想的な姿が目に飛び込んできました。 桜の花の隙間から垣間見える月がまた、ひどく美しく、現実感をまた一つ私から奪っていきました。 あぁ、桜の樹は魔性なのかもしれない。 こうして人を虜にし、おびき寄せるのでしょう。 そんな事を考え、ふっと笑うと、誰かに呼ばれた気がしました。 当然、誰も居ませんから、誰かに呼ばれるわけがないのですが、何故か呼ばれていると強く感じました。 誰に呼ばれているとも、何処から呼ばれているとも何も分かりませんでしたが、不思議と行くべき場所は分かっていました。 壬生寺へ行かなくては、と強く思ったんです。 何故? そんな疑問を持ちつつも壬生寺の方を向いた瞬間、疑問は消えました。 私の目には、見た事もないくらい美しく咲き誇る一本の桜の樹が映りました。 あの樹に呼ばれているのだと、私は確信しました。 そして導かれるままに壬生寺へと行けば、一陣の風が吹き抜けて、桜吹雪を巻き起こしました。 あの桜吹雪の美しさといったら、この世のものとは思えませんでした。 私は近場の岩に腰を下ろすと、ぼうっと桜の樹を見上げましたが、不思議な事にいつまで見ていても飽きなくて…。 そうしている内に、その桜の樹が淡い光を放ち出しました。 最初は目の錯覚かと思いましたが、次第に淡い光は大きくなり、桜の樹全体を包みました。
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