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しかも、平助の事を散々『夢見すぎ』なんて馬鹿にしてきたのに、私も平助の事笑えないくらい夢見すぎですね。
平助の事もすっかり忘れて、こんな馬鹿な想いに耽ってるんですから。
「総司?…なぁ、お前…大丈夫か?」
目の前では心配そうに顔を覗き込んでくる平助に、私は視線を戻すと、目を伏せて笑いました。
「うっかり桜の思い出に浸ってしまっただけですから、大丈夫ですよ」
「そう…なのか?なら、良いんだけどさ。で、総司の好きな花は?」
「私は桜の魔性の様な美しさと、桜が見せる甘い夢に囚われてるみたいです」
そう言って私は羽織りを手にすると、巡察へ出るべく部屋を後にしました。
「はぁ?ちょっ…総司!!何それ!!それって答えなの?桜が見せる甘い夢って何さ?!」
背後では、訳の分からない平助が喚いていますが、詳しく教えてあげるつもりはありません。
だって、誰かに話したら夢が醒めてしまいそうですから。
「巡察行ってきますね、平助」
私はそう告げて一方的に話を打ち切ると、心地良い暖かさの中、廊下を歩きだしました。
すると、ふわりと優しく風が吹き抜けました。
風に髪が舞い、私は軽く髪の毛を押さえると風の吹いてきた方向…壬生寺の境内の方を見て、小さく笑いました。
桜の樹よ、もう少しだけ…夢を見せて下さい。
春のあの夜から…夜桜が舞い散る夜から始まった夢を。
願わくば…
この甘い夢が永久に続きますように…
終
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