かけがえのない宝物

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沖田がそう言うと、境内にある樹の陰から永倉と斎藤が姿を見せた。 斎藤はいつもと変わらぬ様子であったが、永倉は後頭部を掻きながら気まずそうにしており、そんな対照的な二人の姿に沖田は噴出した。 「二人して何してるんですか?二人が樹の陰から男を見つめる趣味があったとは知りませんでした」 「そんな趣味はねぇよ!」 沖田のからかう様な恐ろしい言葉に、永倉は間髪を入れずに否定をしたが、再び気まずそうな顔をすると頭をがしがしと掻いた。 「って、そんな話をしに来たんじゃなくて…何つーか、その……お前さ、何があった?」 「は?」 永倉の唐突な言葉に沖田は思わず、身体の動きを止めると瞬きをした。 そして、永倉の隣りに立つ斎藤へと視線を動かす。 沖田は永倉の言いたい事が分からず、斎藤へ通訳を求めたのだった。 斎藤はそんな沖田の視線を受けると、砂利を踏む音を僅かにさせながら沖田の正面まで近付き、沖田を見つめた。 「総司、お前は九条を気に入っていただろう。誰かが九条に構えば、噛み付く勢いだったお前が、さっきは大人しかっただろう。どんな心境の変化があったのかと思ったんだ」 先程、朔が斎藤の後ろに隠れる様に座ったが、今までの沖田ならばあの時点で確実に機嫌を損ねた。 だが、沖田は機嫌を損ねないばかりか、穏やかな顔すら見せた。 永倉が言うには、斎藤が朔と出掛けた時も沖田は面白くなさそうな様子はあったものの、今までの様な行動はしなかったらしい。 明らかに沖田は変わった。
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