かけがえのない宝物

4/9
前へ
/173ページ
次へ
「あぁ、その事ですか」 永倉達が何を言いたいのか、ようやく理解した沖田は納得した顔を見せた。 永倉達の疑問は当然だ。 実は当人である沖田ですら、内心驚いたくらいなのだから。 あんなにも朔が誰かと親しくするのが不快だったのに、朔の為と思えば、こんなにもあっさり態度を改められた自分に、沖田は笑うしかなかった。 「お前、無理してねぇか?」 「してませんよ」 永倉の言葉に沖田は笑って答えるが、永倉はそんな沖田の反応を疑っているようだ。 確かに、そう思われても仕方が無かった。 沖田は今まで何度も、こうして永倉に嘘を吐いて来たから。 大丈夫じゃないのに、大丈夫と言って笑った。 何度…何でもないと笑って嘘を吐いただろう。 だから永倉は、沖田の『大丈夫』を素直に信じられなくなっていた。 それは沖田も分かっており、肩を竦めながら苦笑した。 「…永倉さんには沢山、大丈夫って嘘吐きましたけど、今回は本当です。嘘じゃなくて、本当に無理なんてしてませんよ」 沖田はそう言うと、斎藤の顔を見上げた。 斎藤のあの一言が沖田の目を覚まさせたのだ。 「一君に諭されて目が覚めたんですよ」
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

550人が本棚に入れています
本棚に追加