かけがえのない宝物

6/9
前へ
/173ページ
次へ
だから、無理などしていない。 全て自分の意思であって、新撰組の沖田総司を演じての行動ではない。 沖田は永倉へそう告げた。 その顔はすっきりとしており、無理をしている様子はない。 その様子に永倉はやがて目を閉じると、安堵した様に僅かに笑った。 「そっか。なら良いんだ」 永倉はそう呟くと、沖田の隣りへ腰を降ろし、沖田の頭をその大きな手でぐしゃぐしゃと掻き撫でた。 「ちょっ…永倉さん何なんですか?!」 突然の事に沖田は困惑したように、永倉の手を退けようとしたが、永倉は笑いながら一向に手を止めようとはしなかった。 永倉が手を止めたのは、沖田の頭が鳥の巣の様になってからだった。 「もう…頭がぐちゃぐちゃになっちゃったじゃないですか!」 「悪ぃ悪ぃ」 一応はそう謝罪してくるものの、その声や顔から永倉が悪いとは思っていないのは明らかであり、沖田は口唇を尖らせた。 そんな沖田に追い討ちをかけたのは斎藤だった。 「総司、頭が鳥の巣の様だぞ」 「あっはははははは!鳥の巣!!確かに鳥の巣だ!斎藤、上手い事言うな!」 「永倉さん笑い過ぎです!一体誰のせいだと思ってるんですか!一君までそういうこと言いますか!?もう…」 斎藤の一言に永倉は腹を捩りながら笑い転げたが、沖田は完全に拗ねたのだった。 沖田は、ぶつぶつと文句を言いながら髪の毛を結わえていた紐を解くと、手櫛で髪の毛を梳き、整え始めた。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

550人が本棚に入れています
本棚に追加