かけがえのない宝物

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長い黒髪が微風になびく様は、女の髪の様に美しく、いつの間にか笑い止んだ永倉は優しい目で沖田を見ていた。 「永倉さん?」 そんな永倉の視線に気付いた沖田が、訝しげに首を傾げれば永倉は、沖田の頭に今度は腕を乗せてきた。 「ちょっ…折角綺麗にしたんですから止めて下さいってば」 折角、後は紐で括るだけという段階まで綺麗に整えたというのに、また髪の毛を乱されてはたまらないとばかりに沖田は永倉の腕を退けようとしたが、そんな沖田に永倉は笑いながら体重をかけてきた。 「安心したわ」 「………は?」 不意に紡がれた言葉に沖田は動きを止めると、隣りの永倉の顔を見た。 視線の先の永倉は驚く程穏やかな顔をしており、沖田は永倉の顔を見つめたまま、微動だに出来なかった。 「俺達はお前に、新撰組の沖田総司という役を押し付けた。お前が個人として振る舞えない立場を押し付けた。そんな俺が言えた義理じゃねぇが…俺は心配だったんだ」 沖田が皆の求める姿を演じる姿が…。 無理をして笑う姿が…。 「偽りの姿を演じ続ける事で、本当のお前が消えちまうんじゃねぇかって…心配だったんだ。お前は何だかんだ言って周りを優先し、自分をないがしろにする傾向があるからな」 「そんなこと…」 「あるだろうが。そういう傾向がなきゃ、自分を押し殺してまで、新撰組の沖田総司を演じねぇだろ。お前、今までどんだけ無理してきたのか自覚ねぇのか?」
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