天上の月

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「吉田…お前らしくもない」 襖が開くと同時に聞こえてきた声に俺は眉を顰めた。 「何がですか?」 そう答えるものの、分かりきっている。 俺らしくない、と桂さんが指摘したのは朔ちゃんの事だ。 分かっているのにとぼける俺に、桂さんは諦めたように溜め息を零すと、襖を閉めて座った。 「勘違いはしないでくれないか?別に私はお前の行動を責めている訳ではないよ」 「でしょうね」 でなければ、今頃俺は刺客を向けられてるだろう。 この目の前の優男に。 勿論、簡単に死んでやるつもりはないし、簡単に殺される程、俺は弱くない。 だが、長州には人斬り彦斎こと河上彦斎がいる。 奴を差し向けられたら、流石に生き延びられるか分からない。 「計画を途中で止めるなんて、どうしたんだ?」 「……朔ちゃんを駒として使いたくなくなったから」 そう。 朔ちゃんへ興味が湧いた。 思わぬ政治的才能に驚くと同時に、急速に惹かれた。 あの凜とした姿、瞳に。 新撰組への忠義に。 芯の強さに惹かれた。 新撰組を想うその心を、俺に向けて欲しいと心底思った。 「長州藩内部で内紛状態の今、まだ動く時期じゃないのは分かってるよ。あんたや晋作達慎重派が、急進派を必死に抑えてるんだからね。いくら権威は失墜しても、一枚岩じゃない俺達じゃまだ幕府に勝てない。牙を剥くのは、もっと根回しをし水面下で幕府の力を徐々に削いで弱らせてからだ」
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