天上の月

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そう。まだ幕府には手を出すべきじゃない。 でも、新撰組は別だ。 たとえ新撰組に手を出す時期を早めても、何ら問題はない。 新撰組は会津藩預かりであり、大枠では幕府の組織だが、幕府は新撰組をさほど重用はしていない。 それに、京都の治安維持を掲げる新撰組と俺達お尋ね者が諍いを起こしたって何の不思議もない。 「桂さんには悪いけど、新撰組に手を出すのを早めさせて貰ったよ。あいつら邪魔過ぎるよ」 「本当に吉田はあの娘を気に入ったんだね。まぁ、私は構わないよ。理由はどうであれ、眠れる獅子の吉田が目覚めてくれたんだからね」 「買い被り過ぎですよ」 「いいや。君は天才だと皆は言うが、彼らが称賛する君の才能なんて氷山の一角に過ぎない。本当なら君はもっと優れた才があるのに、残念ながら君自身も気付かないまま眠っている。それは何かの拍子で君が本気にならなければ発揮されないから、君は眠れる獅子。だが、眠りから覚めた獅子ほど恐ろしいものはない」 桂さんはそう言うと笑った。 「本当は、どうしたら君が本気になるか考えてたんだ。急進派を抑える役目を晋作だけに任せて、君を京都に呼んだのも、沖田や斎藤という剣豪と渡り合う戦力が欲しかったのもあるが、彼らに君をぶつければ君の中の獅子が目覚めるかと思ったからなんだよ」
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