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壬生狼の事だ。
あんなに捜していた相手が戻ってきたのだ。
朔ちゃんを手放しなどしないだろうし、そんな奴等の思いに朔ちゃんも負けて、新撰組に留まるだろうね。
あいつらが朔ちゃんを大事にすればする程、朔ちゃんの中で、卑怯な真似をした俺への憎しみは増す。
あのまま賭けをせずに違う方法を取り、朔ちゃんを手放さなかったとしても…たとえ、どれだけ大事にして愛情を注いだとしても、朔ちゃんが俺を見る日など永久に来ないだろう。
彼女の心を手に入れるには遅過ぎたんだ…自分の気持ちに気付くのが遅かった。
あいつらが馬鹿な事しなかったら、こんな事になる前に気付けたかもしれない。
こんな事態にならなければ、堂々と本気で彼女の心を壬生狼から奪いに掛かれた。
でも、もう遅い。
取り返しが付かない真似をしてから気付いたんだ。
どんなにやり直したくても、もう二度と無理。
だから…。
「…それで良いんですよ」
「吉田?」
自嘲気味に呟けば案の定、桂さんは首を傾げた。
まぁ…当然の反応だよな。
好いた相手に憎まれて良いだなんて、普通は思わない。
ましてや、桂さんには幾松さんがいるから、思いもよらないだろうね。
でも、俺の場合はそれで良いんだ。
「彼女の心を手に入れるには、もう遅いんですよ。俺がどんなに愛情を注いでも、どんなに愛を囁いても、どんなに誠心誠意を尽くしても、手に入らない」
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