天上の月

5/7
前へ
/173ページ
次へ
壬生狼の事だ。 あんなに捜していた相手が戻ってきたのだ。 朔ちゃんを手放しなどしないだろうし、そんな奴等の思いに朔ちゃんも負けて、新撰組に留まるだろうね。 あいつらが朔ちゃんを大事にすればする程、朔ちゃんの中で、卑怯な真似をした俺への憎しみは増す。 あのまま賭けをせずに違う方法を取り、朔ちゃんを手放さなかったとしても…たとえ、どれだけ大事にして愛情を注いだとしても、朔ちゃんが俺を見る日など永久に来ないだろう。 彼女の心を手に入れるには遅過ぎたんだ…自分の気持ちに気付くのが遅かった。 あいつらが馬鹿な事しなかったら、こんな事になる前に気付けたかもしれない。 こんな事態にならなければ、堂々と本気で彼女の心を壬生狼から奪いに掛かれた。 でも、もう遅い。 取り返しが付かない真似をしてから気付いたんだ。 どんなにやり直したくても、もう二度と無理。 だから…。 「…それで良いんですよ」 「吉田?」 自嘲気味に呟けば案の定、桂さんは首を傾げた。 まぁ…当然の反応だよな。 好いた相手に憎まれて良いだなんて、普通は思わない。 ましてや、桂さんには幾松さんがいるから、思いもよらないだろうね。 でも、俺の場合はそれで良いんだ。 「彼女の心を手に入れるには、もう遅いんですよ。俺がどんなに愛情を注いでも、どんなに愛を囁いても、どんなに誠心誠意を尽くしても、手に入らない」
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

550人が本棚に入れています
本棚に追加