送り火

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「え?あ…。そ、総司…」 振り返った先には、冷たい目で藤堂を見下ろす沖田が立っていた。 藤堂が振り返ったのに釣られる様にして顔を上げた朔も、沖田から放たれる殺気にも似た冷気に背筋が冷え、思わず手を止めた。 「だ…だってお前、自分で巡察の籤引いたんだから仕方ないだろ?!」 藤堂が座ったまま僅かに後ろへ下がると、沖田は笑顔を浮かべつつ、藤堂を追い詰める様に一歩足を進めた。 「えぇ。珍しく巡察の籤を引きましたよ。…平助、代わってくれませんか?」 穏やかな笑みと声音とは裏腹に、内容は明らかな脅迫だった。 だが藤堂とて、やっとの思いで勝ち取った非番だ。そうそう容易く手放すつもりはない。 「やだよ!何で代わんなきゃなんないんだよ」 藤堂はありったけの勇気を振り絞り拒絶をしたが、藤堂の言葉に沖田はすっと目を細めた。 その冷たくも鋭い眼光に藤堂は顔色を無くしたが、それでも沖田の脅しには屈しなかった。 「…ぜ…絶対に代わらねぇからな!」 僅かに言葉がうわずったものの、藤堂は沖田から目を逸らさずに、改めてきっぱり拒絶した。 「へぇ…」 藤堂の言葉を聞き、沖田は更に目を細めた。 (俺…殺られるかも…) 沖田の様子を見て、藤堂は今更ながらに後悔をしたが、やはり折角の非番だ。出来るならば死守したい。 非番と命を天秤にかけ、藤堂が苦悩していると、横から朔の声が聞こえてきた。
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