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電柱に張り付いたアブラゼミたちが我こそは我こそはとこぞって嫁探しに明け暮れている道の間を、さっさと帰って夏休みの宿題に手を出したい気分で雨宮タカシは歩いていた。
「なあ、なんで高校生になったいまでも自由研究があるわけ? 小学生がやるもんだと思わねぇか?」
「まあね、気持ちはわかるけれど、やらないとね、もう決まったことなんだしさ、めんどくさいけれど」
こんなたわいもないはずなのに、つい不満を口走ってしまう自分ってなんだろう、すべて不快指数のせいだ、などと見えない敵、暑さに対して雨宮はつい愚痴をこぼした。ついでに言うと雨宮は不快指数の意味を知らない。
「なあ、源田は何をするんだ?」
「何、って?」
「自由研究だよ、あの悪魔が俺らに出した挑戦状」
大袈裟に自分は自由研究をやりたくないアピールを不満げな顔で源田に訴えた。友に言ったって何も変わりはしないのに。
しかし源田は雨宮の顔をしっかりと見つめ、真剣な眼差しを細い目から雨宮に突き刺した。
そして、口を開いた。
「俺は、今、話題になっている正義のヒーローを調べてみるよ」
「正義のヒーロー? お前もミーハーだなぁ」
「いーじゃんか、子供のとき、憧れを抱いた正義のヒーロー! それが町中のどこかで人を助けているんだよ! フィクションの世界だけにしか存在しないと考えられてたヒーローがどこかにいるんじゃないかと思うと、もういてもたっても……」
細ったらしい目の奥に向かって、雨宮は蔑むような目で源田を見下ろした。そしてため息をつきながら口を開いた。
「あのさ、言いたかないんだけど俺は信じらんない。目撃者はあやふやの証言しかしてないし、証拠なんてない。それに証言者がいた現場、時間には別の事件が発生しているのが多いんだろ?正義のヒーローはさしずめ凶悪犯罪者じゃないのか?」
言いたいことを全部ぶちまけ、雨宮はなんだかからだが軽くなった。対照的に源田は雨宮の言葉が気に入らなかったのか、膨れっ面で「それでも正義のヒーローはいるんだ」と呟きながら歩みを進めた。
結局これが原因で、分かれ道で別れるまで二人は話さなかった。
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