正義の味方が現れた

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この夏の猛暑に根負けをしたのだろうか、左に曲がる角にあてぎになっている形で配置されている空き地の鉄線の隙間を縫うように、細長い枯れ草の束が顔を出していた。 あいにく短い靴下を履いていた雨宮は、足首から伝わるこそばゆさをぐっと我慢しながら歩いた。ひとりぼっちで歩いていると、この太陽が地球生物を撲滅でもたくらんでいるのではないかと思うくらいの暑さを共有できる人物がいないことで、なぜだかこの猛暑にたった一人で挑んでいるのではないかと心配になる。 源田は先ほどの曲がり角から延びる直進道路をずんずんと別れの挨拶もほどほどに行ってしまった。 正直、源田がいるだけで彼から発射される不快光線の餌食になってしまうだけなのだが、いなければいないで今度は太陽からの一転集中攻撃を受けてしまうので、不快の上昇は避けられない事実に、雨宮はつい数十秒前にやっと気づいた。バカだからしょうがない。 とにもかくにも、さっさと家に帰って、リビングでクーラーにあたりながらアイスでもむさぼり食うか、と不健康きわまりない今後の生活を考えていたとき、 ヒタッ どこか遠くから、何かおぞましさを放出する不気味な足音が聞こえた。 しかし、そんな怪しげな足音がしたと言うのに、雨宮はまだ夏休み不健康化計画を脳中で必死で練っている最中だ。どんだけ鈍感なんだこのバカは。 ヒタッ、ヒタッ 雨宮はまだ、自分の背後になる足音に気づかない、水がまとわりついているような、あるいは吸盤が張り付いて離れるを繰り返すような、現実ではあまり聞きなれない音が、ヒールをはいて歩いている時になる踵の音のように反響する。 やがてその足音は速さをまし、雨宮に近づいた。 やっと聞きなれない大音量に気づき後ろを振り返った瞬間 不気味に開いた四本の指が、雨宮の腕をねっとりと掴んだ。
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