正義の味方が現れた

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ここがテキサスだとかだったら「ああ、正義のカウボーイさん!」とでも言えるだろうが、いかんせんここは東京の郊外なもんで、しかも日本ではこの服装は単なるコスプレにしか見えない説得力のない衣装だった。が、相手はそうとも考えず、呑気にまあ朝一生懸命一ミリでもはみ出ていたら切っているのであろうとでも思わせる立派に揃えられたアゴヒゲの感触を感じるかのようにゆっくりと指でなぞっていた。 目の前でのんびりと自己ファッションチェックをしながら、こちらに叫んだ。 「おい、おとなしくそのボーイの腕をはなさねぇか」 ゆっくりと低い声で、雨宮の後ろにいる生物に話しかけた、何故かその声は殺意に満ちているような。 「うるせぇ! こいつの運命は俺にかかっているんだぜぇ……お前の出方によって、こいつは死ぬだろうなぁ……クヘケケケ」 このトカゲはトカゲで、相手がどんな反応をしようとも雨宮を殺すだろう。殺意に挟まれた雨宮は、例えバカだろうともこの状況を楽しめるはずでもなく、ただ死期を感じるだけだった。体のしびれはだんだん顔まで蝕み、苦笑いのまま表情が固まりつつあった。 「いい加減大人しくしやがれよ、さもなくば……殺すぜ?」 たった一回しか会話をしていなかった気がするが、どうやら相手は「やつを殺す」と言っているようだ。ああ、向こうもバカだ、違う意味で。さしずめ、戦闘バカか。 「グカフケケケ! 面白い、だったらやってみやがれ! ただ、一歩でも動けばこのガキの命はね」 すべて言い切る前に銃声がなった。 雨宮の顔に、肩に、服に紅い鮮血がまとわりつき、辛うじて動く目玉を地面に向けると、赤い瞳をした目玉が転がり、肩にはやつのもう片方の目玉が引っ掛かっていた。 あまりの状況に対応ができるはずもなく、トカゲが絶命したせいか、体のしびれはとれた雨宮は、今度は足の筋肉がうまく作用せず道路にへたれこんでしまった。
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