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モデルにならなかったら、何の職に就いていたのだろうか。
ショーが終わった後はいつも思う。
「海音!!今日もお疲れ様!!」
マネージャーの林田の手からスポーツタオルを受け取って、軽く首元の汗を拭う。
この後もあいさつ回りに行くため、顔に流れる汗はタオルなんかじゃふけない。
「メイクがくずれたら大変…」
林田の手から、再度薄手のコットンを受け取る。
「今日1番の歓声だったな!
お客さんみんなお前目当てに来てたんだぞ!!」
通路わきにある楽屋には、先輩後輩ひっくるめて20人ほどのショーモデルが控え室として利用しているため、開けっ放しのまま。
「そ、そんなこと、ないと思うけど」
「何言ってんだ!
北瀬 海音初のランウェイデビューだぞ!!
今日会場に何人記者が来てると思ってんだ。全部お前を撮りに来てるんだぞ!」
「ちょ、林田」
慌てて通路の奥へ押し込む。
「そんなあからさまな事大きな声で言わないで。同じ事務所の先輩だっているのよ。
…これ以上もめたくないわ。」
「…そうか。
そうだな、すまん。
だけど、今日は間違いなく大成功だ!
マスコミも大注目のプレミアムショーのクライマックスに新人のお前が抜擢されたんだ!
完璧だったよ。今日もお前は!」
あたしはふん、と
鼻をならしてみせる。
「とーぜん」
ニヤッと林田をにらめば
八重歯のおっきな歯をみせて
ニヤッと笑ってくれる。
「じゃあ行こうか。
インタビューが死ぬほど待ってるぞ」
「はいはい。」
首からとったタオルを林田に突き返して、ホールに向かって歩き出す。
このおっきな扉をあければ
モデル北瀬 海音に
たくさんのフラッシュをあびる。
あたしが望んだ世界がある。
扉に手をかけ
林田にふりむく。
「大丈夫?
かわいいい?」
目線の先にいる優しい彼は
必ず答えてくれる。
「世界一。」
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