1.秘密

5/17
前へ
/115ページ
次へ
わたしに彼氏が出来るのか、って? ……そのうち、出来るといいなって、まるで他人事のように思う。 わたしだって、数年後にはカッコいい男の子を好きになりたい。 それが可能なら……だけど。 *** 一階の玄関口に降りて、水飲み場に着いた。 蛇口を捻り、水で手を洗う。 季節は秋が終わりに近付き、冬に差し掛かる頃。 わたしにとっては、丁度良い気温で気持ちがいい。 グラウンドの方からは、運動部の様々な掛け声が聞こえてきた。 蛇口を戻した所で、ある事に気が付いた。 ハンカチを教室に忘れてきた。 仕方なしに手をパッパッと振っていると、ハンドタオルを差し出された。 びっくりして顔を上げると、クラスメイトの加賀谷(かがや)が立っていた。 ちなみに、クラスメイトといっても話したことはない。 わたしが差し出されたハンドタオルに手を付けられないでいると、 「俺、使ってないからキレイだよ。安心して?」 と言って、彼は笑った。 「いやー、そういう風に思ったわけじゃないんだけどね。 ありがとー」 わたしも彼の笑みにつられて笑ってみた。 そしてようやく、その差し出されたタオルを受け取る。 わたしの掌に着いた水滴は、瞬く間に青いハンドタオルに吸収されていった。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加