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「本当にありがとー。
洗って返すね」
「別にいいよ、特別汚れたわけじゃないし」
そう言って加賀谷は、また手を差し出した。
わたしは躊躇したが、加賀谷がそう言うので、仕方なしに少しだけ湿ったタオルを、その手に乗せた。
加賀谷は、肩に掛けていた通学バッグにタオルをしまう。
「……羽柴は、こんな時間に何してたの?」
バッグを背負い直し、ふと、加賀谷が腕時計を見た。
わたしは空を見上げた。
薄暗い、冬の夕暮れだ。
「いつの間に結構な時間だったんだねぇ。
特に何してたってわけじゃないんだけど、まぁ、雑談……かな。
そういう加賀谷は?」
特に話そうと思ってはなかったのに、自然と質問してしまった。
加賀谷も嫌がる様子はなく、何が楽しいのかずっとニコニコしているように見える。
「俺は明日の委員会の準備。
一応、風紀委員長だしね」
風紀委員という言葉に、あぁと納得した。
「そういえばそうだったね。
確かカナもだったよね?
同じ委員なのに、ひどい差だなぁ」
カナはお菓子を食べながらのノロケ雑談。
加賀谷は放課後遅くまで委員会の準備。
さっすが、委員長様。
「雪城さんは委員だからね。
俺なんか、ずっと続けてたってだけで責任ある委員長だよ。偶々なのに」
はぁ、とため息を吐いて彼はバッグを肩からおろした。
ドサッと、バッグと地面の擦れる音がした。
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