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「お疲れのようだねー」
労りの言葉を投げかけ、わたしはスカートのポケットを漁る。
確かあった筈なんだけど。
加賀谷は、ポケットから何が出るのかといったような顔でこちらを見ている。
「……ん、あったあった。
コレあげる、お疲れの委員長様に甘いものー」
ポケットから出てきたのは赤い包装紙にくるまれた物。
わたしの手から、綺麗な弧を描いて加賀谷の手に落ちる。
「なに?」
「チョコレート。
あ、校則違反?」
カナや和花たちとお菓子食べてる時点で今更なんだけどねー、と付け足してニヤニヤした。
加賀谷は一瞬、困ったように笑って
「いただきます」
と言った。
赤い包装紙を剥がすと、甘い匂いが鼻を掠める。
「タオルのお礼と、お疲れ様の気持ちを込めて」
一口大のチョコレートは、加賀谷の口内ですぐに溶かされていったようだ。
甘い香りは、もう薄れていた。
「……そろそろ戻んなきゃ。
いい加減、カナのノロケ話打ち切って帰るとするよ」
「そうしてくれると有難いかな。
先生に見つかると厄介だしね」
じゃあ、と言って加賀谷に背を向けるとすぐに
「羽柴」
と呼び止められた。
「チョコ、ありがと」
そう言って加賀谷はひらひらと手を振っていた。
「どういたしまして」
ニカッと笑顔を返して、わたしは来た道を戻り教室へ向かった。
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