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「承知しました。少々お待ち下さいませ」
驚きから口をパクパクとさせているバルナスを他所に、老マスターは小さく頭を下げると、裏へと下がって行く。
彼の姿が完全に消えるまで呆然としていたバルナスだったが、それを合図にしたかのようにアメリオへと頭を向ける。
「ど、どういうことですか陛下!?一体何故…」
一体何故、アメリオはあんなことを言ったのか。馬車とは恐らく、盗まれたあの馬車のことを示しているのだろう。
しかしアメリオは、
「本当に馬鹿だな、バルナスは。考えてもみなよ。僕が自分の持ち物に、何も細工してない訳がないだろう?」
当たり前の様にそう言ってのけると、右手の人差し指をくるりと回すアメリオ。
刹那、
「追尾の魔法さ。これを馬車はかけておいた。
この魔法が残す痕跡を辿れば、馬車を盗んだ犯人の所に辿り着くことが出来るんだよ」
アメリオの人差し指から、青白い一本の糸が現れる。
その不思議な糸は、この酒場の奥へと真っ直ぐに続いていた。
流石のバルナスでも、ここまで手札を見せてもらえば分かる。そう。
「と、いうことは──」
「そ。流石のお前でも分かるよね。
僕は最初から、この酒場を目指して歩いて来てたって訳。
何度も言ってるだろ。頭を使うんだよ、バルナス」
彼は、全てを分かった上で行動していたのだ。
「言っただろ、招かれざる客がいるってさ。それこそが、彼等だよ」
バルナスは、自らの体に鳥肌が立つのを感じた。
自らが従属している主の、その圧倒的な行動力と、頭脳に。
そして、
「お待たせ致しました。ご用意が出来ましたので、こちらへ」
古びた扉が軋む音と共に、先程の老いたマスターが頭を下げながら現れる。
「さあ、ここからはキミの出番だ。任せたよ、バルナス」
その男を見、アメリオは口元に笑みを浮かべながら。しかし、これから起こる戦いを予知し真剣な瞳で。
自らの従者へと語りかけた。
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