リレー小説その⑥

4/4
前へ
/4ページ
次へ
「承知しました。少々お待ち下さいませ」 驚きから口をパクパクとさせているバルナスを他所に、老マスターは小さく頭を下げると、裏へと下がって行く。 彼の姿が完全に消えるまで呆然としていたバルナスだったが、それを合図にしたかのようにアメリオへと頭を向ける。 「ど、どういうことですか陛下!?一体何故…」 一体何故、アメリオはあんなことを言ったのか。馬車とは恐らく、盗まれたあの馬車のことを示しているのだろう。 しかしアメリオは、 「本当に馬鹿だな、バルナスは。考えてもみなよ。僕が自分の持ち物に、何も細工してない訳がないだろう?」 当たり前の様にそう言ってのけると、右手の人差し指をくるりと回すアメリオ。 刹那、 「追尾の魔法さ。これを馬車はかけておいた。 この魔法が残す痕跡を辿れば、馬車を盗んだ犯人の所に辿り着くことが出来るんだよ」 アメリオの人差し指から、青白い一本の糸が現れる。 その不思議な糸は、この酒場の奥へと真っ直ぐに続いていた。 流石のバルナスでも、ここまで手札を見せてもらえば分かる。そう。 「と、いうことは──」 「そ。流石のお前でも分かるよね。 僕は最初から、この酒場を目指して歩いて来てたって訳。 何度も言ってるだろ。頭を使うんだよ、バルナス」 彼は、全てを分かった上で行動していたのだ。 「言っただろ、招かれざる客がいるってさ。それこそが、彼等だよ」 バルナスは、自らの体に鳥肌が立つのを感じた。 自らが従属している主の、その圧倒的な行動力と、頭脳に。 そして、 「お待たせ致しました。ご用意が出来ましたので、こちらへ」 古びた扉が軋む音と共に、先程の老いたマスターが頭を下げながら現れる。 「さあ、ここからはキミの出番だ。任せたよ、バルナス」 その男を見、アメリオは口元に笑みを浮かべながら。しかし、これから起こる戦いを予知し真剣な瞳で。 自らの従者へと語りかけた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加