十二月二十三日・前編

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 俺の名前は、千羽林檎という。  帝国立憂咲学園特別科所属の高等部一年生で、風紀委員長なる役職にも就いている。  クラスでは極力目立たないよう頑張っているので、多分クラスメイトには俺の存在を特別視している人間はいない――はずだ。うん。  トレードマークは口にくわえたロリポップと、肩につくくらいの漆黒の髪。あとはその長い髪で右目が隠れていること。あとは男子生徒としては珍しく、アイボリーと言うんだろうか……よくわからんが、ともあれクリーム色のカーディガンを着用していることくらい。  まぁ俺は、そんなもん。この学校の生徒たちとは違って、他の誰とも一致しないような奇抜なトレードマークは持っていない。というかこの学校の生徒たちって、存在そのものがトレードマークだろって奴もたまにいるけど。道真とか。道真とか。  話が逸れた。  とにかくそんな平凡な俺は、この学校において教室に乱雑に並べられた片隅の席と、風紀委員長という椅子を与えられている。もっと言うなら、風紀委員長の特権として寮にひとり部屋を与えられている。  ひとり部屋というのは本当に気楽なもので、部屋を思う存分散らかそうが、ひとに見られるのを憚られるようなことをしようが、誰にも何も言われない。  一応言っておくと、『ひとに見られるのを憚られるようなこと』はべつにいかがわしい内容ではなく、下着一枚で寝るとかそういう話だ。いや、うん、本当だから。嘘なんかついてないから。  またもや話が逸れてしまった。  とにかくそんな俺は、グレープ味のロリポップをくわえながら、現在風紀委員の拠点として構えられた資料室に向かっている。
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