十二月二十三日・前編

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 のだが。  何故か資料室の前に、あるはずのない壁があった。いや……違う。たっぷり三十秒使って、やっと状況が掴めた。  この上の階――つまりは屋上の床が派手に割られ、その真下である俺の歩いていた廊下に障害として落ちてきたらしい。  成る程。 「成る程。じゃねぇし」  何を簡単に納得してるんだ俺は。  いかんいかん。この学校のこの雰囲気に慣れてはいけない。将来社会に出た時に大変なことになる。  俺は顔を上げ、天井に空いた穴を観察する。割れた天井の断面から見て、刃物とかで壊したわけじゃなさそう。  どうでもいいけど外の風が吹き込んでとても寒い。現在十二月、冬真っ只中。  ……しかし、一体誰がこんなことを。  神奈か道真かピノキオか道真か道真くらいしか思い浮かばないよ! 「まぁ凄い。よく私だとわかったわね」 「初めての台詞でモノローグに返事するのは止めて欲しいな。お前が読心術を心得ていると、間違ったキャラ設定が読者に伝わってしまうだろう」  俺の背後から気配もなく話しかけてきたのは、『補食者』三代神奈。夜間特別科帝王学コース所属の高等部一年生、つまり俺の同級生。  貴族の娘だけあって、高貴そうな整った顔立ち。校則に触れない程度に制服を着崩し、センスの良いアクセサリーを身につけた彼女は、申し分なく美少女。  しかし何より特筆すべきはプレデターの名を持つそんな彼女の食生活――ま、その件はおいおい説明するとして。  長い真っすぐの金髪を揺らしながら、見てくれだけは素晴らしい彼女はこちらに歩いてきた。 「御機嫌よう、委員長。今日はとても良い天気ね?」 「あぁ。阿呆みたいに真っ青な空だ。野球部のユニフォームが太陽を反射してとても眩しいよ。それで? 何で天井に穴空けやがった」 「え? 何のこと? 私は床に穴を空けた記憶しかないのだけど」 「会話をわざと平行線にしないでくれ」  神奈は「ふふふ」と意地悪そうに笑うと、軽く跳躍して穴を飛び降り、こちらの階までやってきた。
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