鍛冶の堅物男と珈琲メイド娘。

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 なんでだろ、ジェノバさんに名前を呼ばれると、まるであたしが特別になったようで。顔が熱くなった。  ダブレスの方は、この星ではアイドルのような存在だもの。その方に名前を呼ばれるなんて、大変名誉な事だわ。  ぎすぎす、凄く胸が痛い。溺れたみたいに。喉が渇いて手が痺れる。それはたった一瞬だけど、呼吸がし辛かった。 「えーっと……」  自分の気持ちを誤魔化して、キッチンの冷蔵庫を開ける。うどん玉とキャベツ、ニンジン、お醤油。んーと。あっ鰹節か。 「お昼は焼きうどんにしまっす」 「わーい! 楽しみです。あかりさんっ」 「タイム、今日の食堂の日替わり。麻婆茄子って書いてあったけど良いのか」 「ええーっ!? ま、マーボー……。いっいやっ、あかりさんの焼きうどんのが重要ですっ!」 「食堂で食べて来ても良いですよ? ジェノバさんは?」 「焼きうどんがいい」 「あかりさん! ぼくの分も作ってくれなきゃ嫌ですっ!」 「はーいっ」 「ふふふ。あかりさんを簡単には独り占めさせませんよっ師匠! ってあれ! 居ないっ!」 「お手洗いに行かれましたよー」 「ほんと素早いんだから。あかりさん、ししょーから目を離しちゃ駄目ですよっ。徘徊癖がちとあるんですっ。こないだだってぇー」 「徘徊癖?」  ジェノバさん、うどん好きかぁ。うんと美味しいの作らなきゃ。焼きうどん、焼きそば……。お祭り? 屋台のものなら大体好きかな? なんて。あ、でもたこ焼きとか、じゃがバターとか、どうだろ。色んなもの作ってあげよう。愛情たっぷり。あの人が残さず食べてくれますように。  私は、珈琲がお好きだと聞いていたジェノバさんの為に。朝昼晩と必ず珈琲をお煎れした。
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