鍛冶の堅物男と珈琲メイド娘。

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 ジェノバさん、お昼食べる前にひとっ風呂浴びるからー、ええーっと。あの鍛冶場暑過ぎるんだもんなぁ。もうちょい風通し良くならないかしら。あっ、ヤバイヤバイッ! 時間っ! 午後はこーして、あーしてっ。ああーっ、よしっ書けた! 食堂に置いてある、真珠組直行のポストへ、イーンッ! おっけおっけ!  この予定を書く紙と、出勤名簿にサインするのは、専属ダブレスがメイドを信用し。もうああだこうだと監視するような事は必要ない、ちゃんとやれると判断されたら強制じゃ無くなる。私にはまだまだそれは遠い話かな。やっぱり大変。専属になったから月給は上がるけど。今夜は授業もヒトコマあるしなぁ。あーアクビでた。うひー、今日も頑張ろうっと!  まだまだ半人前なのは分かってる。でも私が些細な失敗をしてもジェノバさんは怒らず。いつも態度で優しくヒントをくれる。いつまでたっても口下手な方だったけれど、まるで一輪のダリアのように。私の横にそっと立って癒して下さった。それが嬉しくて、何も言えなくなってしまう。  私が笑い掛けると、彼はすぐに視線をそらしてうつむいてしまうけれど。でも、そんな空気も幸せだった。  書類や荷物を抱えたまま小走りで私は今日も鍛冶場へと向かっていた。  何だかんだで専属メイドになってから二週間があっという間に過ぎていて。私はジェノバさんの生活スタイルもだいたい把握してきていた。今日も空き時間を見つけて、タイムくんに妖精さんとドワーフさんの言葉を教わろう。  今日こそ、ジェノバさんに私の珈琲をせめて半分は飲んで貰おう。  毎日が、とても楽しみだった。  眠るのが勿体ないくらい。だって、私はジェノバさんの笑った顔を知らない。
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