鍛冶の堅物男と珈琲メイド娘。

16/61
前へ
/255ページ
次へ
 もしかしてジェノバさん、あれを飲んだのかな? だから、私を専属に? と、とにかく。同じもの作ってみよっと! 「っちょっと待ってて下さいねっ! 私、ジェノバさんが気に入るように。甘い珈琲お作りしますからっ」  世界に誇る英雄が飲むんだもの。冷たくて、甘くて、とびきり美味しくなきゃっ!  そっか。甘いのが飲みたかったのかぁ。ふんふん。よーしっ、氷よしっ! チョコレートよしっ! パウダーよしっ! えーと、後は……。 「おい、」 「へっ?」 「顔ちゃんと洗ってこいよ」  ガムシロップまみれの私の顔を、ジェノバさんは濡らしたタオルでゴシゴシ拭いてくださった。 「ふ、あっあっあ~。すみません~っ」 「お前はいつも、甘い匂いがするけどな」 「えっ?」 「蜜みたいな」  するりと、私の髪に触れたその大きな手は――火傷だらけ。切り傷だらけで。その綺麗でたくましい、野性的な表情と肉体と随分マッチしてる。  熱い瞳は、やっぱりすぐにそらされてしまって。すごく残念。そうしてまた、だんまりのあなた。もう慣れたけど。何度でも、この空気がいとおしく感じます。  気になるんです、凄く。あなたのその――少しだけ戸惑う雰囲気も、私を気遣う視線も何もかも。  そっと隠したそのぼろぼろの左手を。私は両手で包み込むように触れた。大切な、手。 「……気持ち悪いだろ」  ――傷だらけだから?  そっか、英雄だって人間なんだ。  コンプレックスのひとつやふたつあるんだきっと。 「……いいえ」
/255ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加