鍛冶の堅物男と珈琲メイド娘。

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 私が彼を安心させたくて笑った顔を、やっぱり見てはくれなかったけど。横目でちらっと見てくれていたのかな。  握り返そうとしてくれたその手は、少しぴくぴく動いたまま。そのまんまだった。とてつもなく、やさしい人。完璧なんかじゃなく。弱さを知っている人。  さっき、どさくさに紛れて抱き付いてしまえば良かった。  幸せな日々は、あっという間に何日も何日も。風のように過ぎていく。淡い想いも、どんどん募るばかり。何か知れば知る程、もっと欲しくなって。独りになりたくないと寂しくなるの仕方なくて。  週に一・二度は休みを好きに取って構わないとジェノバさんに言われたけれど、私は休み無く働いた。「無理してない? 休みを取れるように」と、真珠組の受付さんにも言われたけれど、全然大丈夫だった。体力は普通だけれど、でも規則正しい生活してるし。ご飯もきちんと毎日栄養取れたものを食べている。やっている事は主婦・お母さんと同じような事ばかりだし。何より私は片時もジェノバさんから離れるのが嫌だったから。ジェノバさんが武器を作らない日も、必ず鍛冶場の掃除をしたし工具も磨く。妖精さんとドワーフさんのお世話もする。彼が食べたいもの、食べたことが無いものを何でも作った。何でも良いから、尽くしたかったから。  悩みと言えば、寮から鍛冶場が遠く離れている事くらい。同じお城の敷地内なのに歩いて20分もかかる。だけど良い運動だと思えばやすいものだ。
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