鍛冶の堅物男と珈琲メイド娘。

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 考え事をしたり献立を練ったり授業の予習をするのにも、その歩く時間を有効に使ってるし。まあ、たまに転んだりしますが。 「ちょっと、アナタ。起きなさい」  しっかりとした、凛とした知らない声。 「ジェノバさん……むにゃむにゃ」 「ちょっと。アナタこんな所で寝たら花壇の肥料に致しますよ」 「むにゃむにゃ……ジェノバさん」  ジェノバさん、会いたい。 「雨宮アカリ。起きなさい」  はっ! あれ? 「あれれ? えーと?」  ここは、ガーデン? あ……満月綺麗だなーって思って。寮までの帰り道を一人疲れた身体でトボトボ歩いてたんだっけ。もしかして寝た、のかな? 「こんな夜中に、花壇で眠るなんて。一体何です? アナタ、元まめ組の雨宮アカリでしょう」  うわっ、泥だらけっ! おしりーっ! かかっ髪ー! 「うわーっ! すみません~。あ、あなたはさくら組の?」  私を起こしてくれたピンクのメイド服の、お団子の女の子は。ツンとした表情のまま私が起き上がるのを手伝ってくれた。背は低くて。150センチ位の華奢な彼女の足元に置いてあるランタンが、辺りをセピア色に暖かく照らしてくれている。あ、中は火じゃない。炎の妖精さんが入ってる。カワイー。ピンクのメイド服、泥だらけの裾のズボン。間違いなくさくら組、だよね。 「疲れているようですね。解ってます? 目の下のクマ。手の先も冷たいし、その内風邪をひきますよ。専属になって張り切るのも良いですが。メイドが病気したら迷惑掛かるのはダブレスのジェノバ様ですよ」  気の強そうなその子は、私にそう言い放った。 「あ……そう、ですよね。ご忠告、有難う御座います」  そ、そんなに酷いクマ? やだ~っ! 今日一日、ジェノバさんもタイムくんもみんな、「おー。あかりクマあるわ」みたいな目で見てたかなあ!? 恥ずかしいーっ! 今日だけ化粧すれば良かったっ!  ああ、昨日ちょっとだけ徹夜して。推理小説読んじゃったんだよね。結局いつの間にかベッドに座ったまま爆睡してたけど。
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