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「黙っていなさい。ジェノバ様の好き嫌いも、朝起きる時間も、お仕事の内容、武具依頼の数、何もかも。誰にも教えてはいけません。アナタがあの方の専属で居たいのなら。どんなことも口外しないのが一番です」
「なんでそんなに親切にして下さるんです、か?」
この子も、ジェノバさんのファンなのかと思ったけど。違うのかな。
「……結構前の話ですが。アタシがさくら組に異動したばかりの頃、ここの花壇の花の水やりを忘れてしまって枯らしてしまったんです。それで先輩に酷く怒られて。謹慎すら命じられて。アタシは真珠の人達にも小言を言われて、ここにこうして座って途方に暮れていたんです。そしたらアナタがひょっこりやって来て、枯らしてしまった花の片付けを快く手伝ってくれたんです」
「えと、ごめんなさい……覚えて無くて」
「何年も前ですからね。アタシにとっては大層大きな助け船でしたが、アナタにとっては些細なボランティアだったのでしょう。……こうすれば、分かりますか?」
彼女はパッションピンクのその二つのお団子をほどいた。ゆるゆるのカール、つやめいた髪。あ――なんか、えっと。
「ああっ! えーと! ああっ! ああっあの時のっ!」
「名前は思い出せないようですね……まあ良いですけど。とにかく、アタシがメイドを続けているのはアナタのお陰なんです。アナタと関わったのはあれきりですが、お互いダブレスの為、アイゼル城の為に同じ雇い主の下で頑張ってる。それだけで孤独から逃れられました。ずっと恩返しがしたかったんです」
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