鍛冶の堅物男と珈琲メイド娘。

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 はやく会いたい。好き。 「あっ。あかりさん! 師匠、私室の前に立ってますよっ。おーいっ!」 「しっ! ちょっと待ってください。なんか女の方も居らっしゃるようですが」  ジェノバさんの私室の前には、いつも通りの格好のジェノバさんの姿と、彼と何か真剣な話をしている様子の黒いストレートボブの女の子が居た。  ちょいちょいと、少し離れた柱の影に隠れる私とタイムくん。うーん、この位置じゃあ会話は聞こえないなぁ。 「んん? あれって……師匠と同じ二代目ダブレスの人じゃないですか? 確か、死神鬼族のティラキリーゼ様ですよ」 「あっ、ダブレス? しにがみきぞくって何ですか?」 「地獄から鬼と死神を召喚出来るんですよ」 「えっ怖っ! タイムくんって物知りですね。あ、授業でやったかな」 「あかりさん、常識ですよ。彼女はまだ16歳ですが、モンスターの恐慌から隣街を救ったり。賞金首を何人も捕まえたりしているそうですよ」 「そ、そうなんですか」 「新聞読みましょうね」 「はぃ……」  何故か説教される私。  ティラキリーゼさんが、何か叫んだ。早口で、何を言ってるのかわからなかったけど。ジェノバさんの胸にすがりながら、何度も何かを訴えて。  涙混じりで話すティラキリーゼさんの背中はとても小さくて。背中が開いている白いワンピースと白いブーツがとても似合ってて、そんな彼女をジェノバさんは……目を伏せしっかり抱き締めた――。  胸が、疼く。
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