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ティラキリーゼさんの細い両腕が、ジェノバさんの首に絡まる。
「あかりさん、あかりさんっ」
「えっ、あっ、はい」
ショックでしばらく固まっていた私は、タイムくんに身体を揺さ振られて現実に戻ってくる。
ジェノバさん、恋人が居たんだ。
あ、ははっ。何、メイド服作ってもらったからからって舞い上がってんだろ。好きになって貰えるかもなんて、淡い期待しちゃって――頭おかしいよ私。そんなのは奇跡。
そうだよ、ジェノバさんはダブレス。一般人なんかと恋しない。あんなにキレイで可愛くて細くてそれでも強く戦える勇敢な女の子の方が、私よりよっぽど価値があるもの。髪だって、私は痛みまくりだけどティラキリーゼさんの髪はまるで絹みたいで。ジェノバさんに抱き締められた時に揺れた弾み、一際輝いた。
きっと何を取ってもかなわない。
「私、馬鹿でしたね」
「あかりさん……ティラキリーゼ様は、」
「あっ。彼女、お帰りになるようです」
ジェノバさんとティラキリーゼさんの身体がゆっくり離れ。お二人はぼそぼそと少し会話を交わして、涙をぐしぐし拭いた彼女はジェノバさんに思い切り笑った。そして彼の頬にキスをし、もう一度ハグ。頷き合い、満足そうな顔をしティラキリーゼさんは大聖堂の方へと歩いて行ってしまった。
「ぁ――あんなに美しい恋人が居たなんて、知らなかったです。たっタイムくんも酷いなぁっ。黙ってたなんて~。私の為に、応援するー! なんて言って、わざわざ喜ばせてくれなくったって、……良かった、のに」
涙が、勝手にたまってくる。込み上げて、苦しくて。どんどん自分を嫌いになって。今日はあのまま、いつまでも寝てれば良かった。見たくない、あの人のあんな安堵の表情は。
「あかりさんっ、違います! ぼくは!」
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