鍛冶の堅物男と珈琲メイド娘。

37/61
前へ
/255ページ
次へ
「アイゼルとリゼルを繋ぐ為に俺はここに左遷されたから。易々と本当の家族の所には戻れない。戻る時は……剣一本必要ない世の中になったら、だな」  いつもの真剣な眼差し。彼はきっと、誠の『ダブレス』なのです。 「ぼくが一人前になってジェノバ師匠が口出し出来なくなれば、ティラキリーゼ様も安心っ! って~ことですねっ! ほら、そうすれば引退出来るでしょうっ」 「馬鹿。百年早い」 「ふふふっ」 「ええーっ」  結構筋が良いと思うんだけどなぁーってぶつぶつ呟くタイムくん。まだまだ発展途上のようです。 「ティラキには、ちゃんと言ったよ。親に、まだ待ってくれと伝えてくれって。俺だって本当は会いたいんだ。捨てられた訳じゃ無いからこそ。お互いを気にしてしまう。一番大切にしなきゃいけない人なのに。でも、だから――会って決心が揺らぐのが怖い。逃げて楽になりたいと思うんじゃないかって。俺は他のダブレスの奴らを裏切りたく無いのに、どっかで簡単に縁が切れてしまうんじゃないかと思うとキリがなくて辛いんだ。応援して後押ししてくれてる人達の期待にだって応えたいのに。何より今の俺は、リゼルとかアイゼルの為だけに武器を作っている訳じゃ無いから」  たった、一人で。  何度。いくつ。  どれほどの修羅場を越えて来たんだろう。私にはきっといつまで経ったってこんな考え方は出来ない。 「迷った時もあった。武器なんか、作る人間が居るのがそもそもの争いの原因で、俺はいつでも鍛冶師を辞めるべきなんじゃないかって。その事が、取っ掛りになってて」  彼の、こんなに長い本音を聞くのはきっとタイムくんも初めてだったんだろう。もしかしたらもう一生聞けないかも知れない。言葉一つ一つを、私もタイムくんも噛み締めて聞いていた。
/255ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加