鍛冶の堅物男と珈琲メイド娘。

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 鍛冶場に持っていくものを、キッチン台の上に積んで行く。タオル四枚、ほうきとチリトリと――。 「あかり、」 「っはい!」  またいつの間にか背後に立っていた彼は、ぐいっと私の手を引っ張り。  再び後ろから抱き止められる。  今度ははじめからしっかり、ぎゅう~っと。  破裂しそうです――私。そんなに、あーっ。待って、下さいっ。そんなに……夢中にさせないで、下さい。 「あっあ、あっ、あのっ! こんにゃわ!」 「ん?」 「こ、ここ今夜は、なにが食べたいです、かっ?」  しっ仕事中だもんっ!  冷静にっ。冷静にっ!  からかわれてるだけかも知れないし……。  あ、食堂で頂いたサケがまだあったっけ。ホワイトソースかけて焼こうかな! お米そろそろ切れるから、貰いに行かなきゃっ。うん、よしっ。  駄目よ、あかり。しっかりして。ジェノバさんはダブレスだもん。身の程をわきまえなきゃ、駄目――。  好きだけど、だめだ。  これ以上好きになって気持ち押さえ付けられなくなって、迷惑かけるのだけはイヤだもん。だから、ダメ――。 「お前がいい」 「えっ、――」  ジェノバさん、ずるいです。  あ……く、唇が――。 「お兄ちゃーんっ!!」 「ししょおーっ!! ティラキさんがぁあ」  バターンッ! っと扉を開けて騒がしく入ってくるティラキリーゼさんとタイムくん。私はすぐにジェノバさんから離れて、食器を片付ける。  恥ずかしい。彼の顔が……見れないもの。  聞きたい、知りたい。どうして私を指名して下さったのか。 「どうした」 「ごめんねーっ。ハンマー壊しちゃったーっ」
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