鍛冶の堅物男と珈琲メイド娘。

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「ちょっ……! 止めてくださいっ! ただちょっと切っただけなのに!」 「あ……、そ、そうだな」ごめん、ごめんと、何度も謝ってくれたけど。ああ、凄く落ち込んでるみたい。真顔だからあんまり感情はわからないけど、彼のオーラは悲しげだった。無口な、人だな。でも、ちょっと喋るのが苦手そうなだけで。なんだか優しい人。私よりも年上、かな。24歳位に見えるけど。  普通の人間が魔法を使う場合、その人の命を削るか、自然界の精霊の命を削るかで使用する事が出来るのですが……今のは間違いなく普通の回復魔法。こんな軽度の怪我にわざわざ魔法を使うなんて。この人、大丈夫かな? 「ほんと、ありがとうございました。あの鍛冶場で働いている方ですか?」私の問いに、彼はこっちを見ずにわかりにくく頷いた。恥ずかしがり屋さん、なのか。無愛想なのか。 「私、メイド隊まめ組のアカリと申します。今日からお世話になりますっ」ううっ。精一杯のスマイル、見てもらえず……。オレンジの髪のその人は、私に少しだけ会釈して背を向け、使った医療品を片付けた。 「あのぅ、さっき鍛冶場には人間はジェノバさんと見習いの方しかいらっしゃらないと伺ったのですが、貴方は見習いの方ですか?」と聞いたら。彼はすぐに振り向いて。何故か、お互い真顔で数秒見つめ合う。……えっ。な、なに? 「え、えーっと、見習いの方のお名前って、その~」会話会話っ! 笑って笑ってっ! ジェノバさんの情報を聞き出すチャンスよっ。大体こんな紙ペラ一枚に書いてある事なんてたかが知れてるし。  リリーさんに頂いた、ジェノバさんの履歴書っぽいもの。せめて写真付きが良かったなぁ。一週間前に頂いてからいつもメイド服のポケットに入れて。何度も読み返してるけど。もっと好き嫌いとか、お風呂に入る時間とかさ~。そーゆーの書いておいて欲しかったなぁ。
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