0人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなた、誰ですか?」
と、まるで初対面のような、少なくとも知り合いには絶対に言わないであろう言葉を。
すると、彼はやはり不思議そうな顔をした。
そして口を開きかけた彼よりも先に、わたしの母だという女性が言った。
「彼は深川 晴くん。美紅、あなたのクラスメートよ。晴くんはあなたがここに運ばれてからほとんど毎日来てくれていたのよ」
「何でそんな風に言うんですか?まるで…...美紅が僕のことをわかってないみたいな言い方じゃないですか…...」
彼は少し不審げな顔をしてそう言った。
まぁ、当然の疑問だろう。
母もそう訊かれることを予想していたようでためらわずに答える。
「そのとおりよ」
「え?」
「美紅はね…...記憶をなくしてしまったようなの。たぶん事故のせいで…...。まだ自分の名前すらよくわかっていないのよ...…」
母もまだその事実を受け入れることができていないのだろう。
彼女は消え入りそうな声で、重苦しくそう言った。
すると、彼はひどく驚き、言葉を失っているようだった。
「そんな…...嘘だろ…...?」
彼はまるでうわ言のように同じ言葉を何度もつぶやいていた。
最初のコメントを投稿しよう!