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とうとうこの日が来た…。
周りを見ても知らない場所で知らない人達…。
唯一、自分の入学式について来た親の事だけしか今はわからない。
母は先に新しく住む事となった自分の部屋で、掃除や片付けをして待つ事になった為、父と二人で外に出てタクシーを拾う。
「S高校までお願いします…。」
心なしか行き先を伝えた父の顔が寂しそうな感じがした。
父はS市に来る前に自分に言っていた事があった。
「実は俺も昔は親元を離れて寮に入って高校に行ってたからな、もしかしたらお前も行きたがるんじゃないかとは思ってたんだ。
お前の場合は寮ではないからちょっと大変かもしれないけど頑張れよ。」
初めて聞いた内容であった。
父も母も自分が産まれる前の話はあまりした事が無い為、若い時の話等は殆ど知らないに等しい。
そして、この時の父の表情も、どことなく寂しそうな様子であった。
沈黙した自分達二人に、タクシーの運転手はにこやかに話し掛ける。
「お客さん!今日は入学式ですか?」
ボーっとしていた父は少し慌てた様子で答える。
「そうなんだよ。ちょっと遠い所から来て息子一人で住む事になるから心配なんですよね。」
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