3-①

15/15
2220人が本棚に入れています
本棚に追加
/750ページ
「大和、朝ぶりですね」 突然名前を呼ばれてハッとする。 声のした方を向くと、取り囲む生徒達の中を、まっすぐにこっちに向かって来る苓先輩の姿があった。 あっ、何だかうれしい………。 「苓先輩……」 無意識に思わず近いていく。 俺と苓先輩を交互に見て、静香が隣で驚きの余り固まっている。 「お昼ですよ。食堂には行かないのですか?」 優しい声で語りかけてくれる。 さっき中々会えないと散々言われた苓先輩が、目の前に立っている。 朝、僅かな距離を一緒に歩いただけなのに、何故こんなに会いたかったんだろう………。 「どうしたのですか?」 「えっ……」 苓先輩が心配そうな顔で、少しオロオロしている。 「泣い……てる。ど……した?」 苓先輩の後ろにいた、背の高い格好いいと言う言葉がぴったりの人が、声をかけてくれた。 「泣いてる?」 「何かあったのですか?」 苓先輩は自分のハンカチで、俺の涙を拭いてくれた。 俺……泣いてるんだ……。 何故? 苓先輩に会えたから? 会えないって思っていたのに、声をかけてもらえたから? うれしいって事だけは確実で、でも涙の理由は分からなくて……、 「何でも……ないです。 あっ、ハンカチ洗ってお返ししますのでっ、 失礼します。静香、行こう!」 急にすごく恥ずかしくなっちゃって、勢いよくお辞儀をすると、まだ呆然としている静香の手をとり走り出した。 「えっ、大和!」 苓先輩の声がしたけど、振り返る勇気はなくて、ただ走り去った。
/750ページ

最初のコメントを投稿しよう!