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「大和、朝ぶりですね」
突然名前を呼ばれてハッとする。
声のした方を向くと、取り囲む生徒達の中を、まっすぐにこっちに向かって来る苓先輩の姿があった。
あっ、何だかうれしい………。
「苓先輩……」
無意識に思わず近いていく。
俺と苓先輩を交互に見て、静香が隣で驚きの余り固まっている。
「お昼ですよ。食堂には行かないのですか?」
優しい声で語りかけてくれる。
さっき中々会えないと散々言われた苓先輩が、目の前に立っている。
朝、僅かな距離を一緒に歩いただけなのに、何故こんなに会いたかったんだろう………。
「どうしたのですか?」
「えっ……」
苓先輩が心配そうな顔で、少しオロオロしている。
「泣い……てる。ど……した?」
苓先輩の後ろにいた、背の高い格好いいと言う言葉がぴったりの人が、声をかけてくれた。
「泣いてる?」
「何かあったのですか?」
苓先輩は自分のハンカチで、俺の涙を拭いてくれた。
俺……泣いてるんだ……。
何故?
苓先輩に会えたから?
会えないって思っていたのに、声をかけてもらえたから?
うれしいって事だけは確実で、でも涙の理由は分からなくて……、
「何でも……ないです。
あっ、ハンカチ洗ってお返ししますのでっ、
失礼します。静香、行こう!」
急にすごく恥ずかしくなっちゃって、勢いよくお辞儀をすると、まだ呆然としている静香の手をとり走り出した。
「えっ、大和!」
苓先輩の声がしたけど、振り返る勇気はなくて、ただ走り去った。
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