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「何を隠すのですか?」
二度目のため息をはきかけたところで、声をかけられた。突然の事に吸い込んだ息を吐き出せず、空気の塊が胸に詰まる。激しくむせた。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。割りと平気だ」
やや胸に違和感が残るが、苦しさはない。落ち着いて呼吸してから、声をかけてきた生徒を見た。
――お、こいつは。
ライトブルーの長髪。金色の瞳。女性らしい顔立ちはそこそこ整っていた。体に女性としては平均的だと思われる程度の起伏があることから考えても、まず間違いなく女性だろう。
「私はツバサ。ツバサ・ミストスケールです」
「アイリス・キーフォースだ」
しかしアイリスが注目したのはその見た目ではない。
「お前、武気遣いか」
武気という力を遣えるということだった。
この世界には二つの力があり、ひとつが魔気。そしてもうひとつが武気だ。力の強さは違えど、魔気はヴァースラントの人間ほぼすべてに遣える力だが、この武気という力は違う。ごく限られた一部の人間しか遣うことができず、しかも武気を持つ者は魔気を持てない。これに関してはその逆も然りだが。
力の性質も、武気と魔気では大きく違う。魔気が攻撃や防御、治療にと汎用性が高いのに対し、武気は攻撃しかできない。しかしその代わり、威力は魔気と比較にならないほどだ。仮に同程度の魔気と武気がぶつかったら、魔気は霧散するが武気は全く衰えることもないだろう。
「どうして、わかったんですか?」
怪訝な、というよりは不思議そうな顔でツバサが問うた。他人の力の質を初見で、しかも一瞬で見抜ける人間などそうそう居るものではない。
「……眼は良いんだよ」
なるべく不自然に思われないように、声音から動作まで意識して言う。
「……そうですか」
しばらく探るような目で見られたが、最後には意外とすんなり信じてもらえたようだ。とりあえずホッと胸を撫で下ろす。
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