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「アイリスは……ですか?」
その直後、微弱な殺気を感じて、アイリスは立ち止まる。校舎の向こう側が発生源のようだ。
「聞いていますか?」
「あ……すまない」
隣でツバサがほほを膨らませた。そうするとずいぶん愛嬌のある彼女の顔を見ながら、アイリスは内心ほくそ笑んだ。
――中々に粒揃いじゃねーか。
殺気の主は、少なくともツバサよりできる。そのツバサは結構な腕だ。
草原だと思っていた場所は、一歩踏み込めば立派な森が広がっていた。
外観も綺麗だと思ったが、中も相応に綺麗だ。わずかにある傷や汚れも、それほど気にならない。
「同じクラスだったんですねぇ」
隣でのんきな声をあげたのはツバサだ。射し込む陽気に目を細め、腕を枕にして机の上に上半身を寝かせている。
「あぁ、そうだな」
自分でも気のないと思う返事しながら、アイリスはひたすらに教室を見回していた。このクラスでそこそこやれそうなのは、ツバサを除けば一人しかいなかった。
「何を見てるんですか?」
「んー、このクラスはお前以外みんな魔気遣いだな」
「それを見てたんですか」
「眺めついでにな。かわいい女の子を物色してただけだ」
「かわいい女の子、居ました?」
「ダメだな。このクラスならお前が一番だろう」
「照れますよ?」
「勝手に照れてろ」
窓の外から、時を刻む鳥の鳴き声が一度聞こえた。それがどうやら始業の合図らしく、教室の戸を騒がしく開けて教官が入ってくる。
「おーう、お前ら静にしろよー」
筋骨隆々の巨漢。逆立った髪。暑苦しい顔。いかにも熱血系教官といった風体の男だった。
教官は小脇に抱えた箱を教卓に置くと、ぐるりと教室を見回した。
「お前らの教導を務めることになった、がリア・シュナイドだ。全員揃っているようだから、早速お前らに配りたいものがある」
教卓においた箱を漁り、がリアは手のひらほどのたまごを取り出した。巨漢である彼の手のひらサイズだ。とんでもなく大きいたまごであることは容易に想像がつく。
「ほれ、一人一個持て」
前から回ってきて、アイリスの手元にもひとつたまごが残った。
「しばらく触れていろ。それから産まれるやつが、お前らのパートナーになる」
つまりこれは兵士育成のための道具なのだろう。ならば二つの気を食べて生きる気性生物の類いか。そうあたりをつけ、アイリスは言われた通りにたまごに触れた。
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